流行語

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Sep 10, 2010 00:14 英語化
 銀座での買い物帰りに電車の中で、短いスカートをはいた女性が向かいに座っている。

 引き締まった小麦色の美脚にヒールサンダルが夏らしくてとても素敵。サンダルの先から可愛くのぞく指先は、ブランドのバッグを抱える手とお揃い。そのネイルアートは、僕が今着ている服より高いかもしれない。長いウェーブの茶髪にかわいい顔をした彼女は、最近流行っているカンカン帽を斜めに被っている。猛暑の中でもおしゃれを欠かさず、彼女のスタイルに感動したいところだが、ブリーフ&トランクスの『青のり』のメロディで、頭の中で「つけまつ毛が外れてるよ、つけまつ毛が外れてるよ」と流れている。強烈な太陽の下で中央通りを歩いていたせいか、暑さで接着剤が溶けたようで、片方のまつ毛が取れかけていますよ、お嬢さん。気にしていないのか、気付いていないのか。とにかくそのまぶたにくっ付いている毛虫らしきものをなんとかしてくれよ、と思っていると上野に到着。

 銀座では見つからなかったが、アメ横ならあるかもしれない。早めに買わなかった自分が悪いのだが、半袖ドレスシャツがもう買えないとは。いくら九月だからといって、外は35℃を超えているし、向かいの女性はせっかくのおしゃれが台無しになっている。記録的な暑さの中、フリースやヒートテックなんか要らない。

 これは、もしかして、話題の英語公用語化の結果なのか。テレビニュースで観たのだ。某衣料品会社が公用語を英語にして、会議や文章はすべてイッツイングリッシュ。多分会議で、上司が「Alright, listen up guys. Even though we're coming up on September, it's still hotter than a four-balled tomcat outside, so I wanna hold off on releasing the fall line」と命令を下したが、社員は言っている意味が分からず「OK!」と合わせて、そのまま秋服を入荷してしまったのではないか。だから今はどこの店に行っても仕事用のシャツが見つからないんだ、きっと。

 毛虫女とさよならして電車を降り、駅を出ると目の前にアメ横の入口がある。銀座もそうだったが、ここの女の子も皆カンカン帽とつけまつ毛をしている。去年はあの瞳を大きく見せるカラコンで、今年はつけまつ毛か。まあ、あのレンズの入っていないメガネよりマシだ。いくらファッションとは言え、そういうメガネをする人は、メガネを必要とする人の障害をバカにしているようにしか見えず、そろそろ若い日本女性の間で、おしゃれなヴィトンの補聴器やグッチの車椅子などが流行ってもおかしくない。

だが、仕方がないんだ。流行に飛びつくのが日本人だから。井上雄彦先生が漫画を描かない限り、バスケが流行らない国なのだ。今年はカンカン帽で、去年は新型インフルエンザ対策マスク、一時バナナがどこにも売っていなかったし。そして、社内英語化のニュースを見ると、数年前の小学校での英語義務教育化が話題になっていたのを思い出す。英語を教えろと文部省が言っても、カリキュラムがないし研修も支援も提供せず、責任をすべて教員に負わせる。でも、そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ。何年経っても生徒たちの英語力も教員の指導力も向上しないなんてどんだけ~!

 …ってもう古いか。

 思うに、つけまつ毛をつけるギャルと同じ心境で、文部省が英語義務化を要求したり、日本企業が英語を社内公用語化したりするのではないか。グローバル化対策というより、ファッション感覚でこれから「We'll be conducting all business in English」と格好つけているようにしか見えない。そして、「社内公用語英語化」は「食べるラー油」や「サムライブルー」と同じく、2010年の流行語に過ぎないのではないかと思いながら、アメ横を歩いて半袖のシャツを探している僕。