中文日訳の宿題から感じたこと -使役・やりもらいの翻訳を例に-

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Jan 12, 2015 18:27
1.はじめに
 本稿では、中国語の“让字型兼语句”“使字型兼语句”を日本語に翻訳する宿題(4)から感じたことについて説明する。
 その宿題の日本語の訳文は主に四つのタイプに分けられる。タイプ1は使役態を使った間接的な働きかけと直接的な働きかけを表す使役文(文1-6)。タイプ2は使役態を使わずに伝言や伝聞を表す文(文7-11)、たとえば「~ように」と言う。タイプ3は使役態を使わずに恩恵や受益を表すやりもらい文(文12-15)、たとえば「~~てもらう」。タイプ4は主に政治文書で使役態を使わずに他動詞を用いる文(文16-19)。実はタイプ4では使役態を使っても不自然とはいえない。本稿は主にタイプ1(文1-6)とタイプ3(文12-15について分析したい。
 本稿の研究内容と研究方法としては、北京大学MTI修士1年生学生30人の宿題の内容からタイプ1(文1-6)とタイプ3(文12-15)の訳文を抽出し、実際に使った表現形態によって分類しまとめ、それらの実例から感じた問題点を紹介する。(使役の誤用例についての表は付録として本文の最後に添付する)

2.本文
 この学生30人の宿題を分析してから、一番注目したいのはタイプ1(文1-6)の使役文とタイプ2(文12-15)のやりもらい文の使い分けである。即ち「~させる」と「~てもらう」の使い分けである。具体的に例文をみてみると、文1“小李想去,就让他去吧”(参考訳文:李さんが行きたいなら、行かせましょう)、文2“叫老王给你弄点儿吃的”(参考訳文:王さんに何か食べ物を作らせましょう)、文12“我们都想让老师讲讲日本的情况”(参考訳文:私たちは先生に日本のことを話していただきたいと思っている)、文13“好在我让他留下了姓名和地址”(参考訳文:幸い、彼に名前と住所を残してもらった)文14“等到10点钟还不来的话,再叫小王去喊他”(参考訳文:10時になっても来ないようだったら、王君に呼びに行ってもらおう)と文15“改选前,先让大伙提提意见”(参考訳文:改選する前に、みんなに意見を出してもらおう)という4つの文からのぞかれる。
 文1“小李想去,就让他去吧”(参考訳文:李さんが行きたいなら、行かせましょう)では、「行かせましょう」などの「~させる」の形を使った学生は30人のうち12人がいる。「~てもらう」を使った学生はわずかに2人しかいない。しかし、文2になると、「作らせましょう」などの「~させる」の形を用いた学生は7人、「~てもらう」表現を用いた学生は過半数の16人もいる。なぜこのような差異があるかというと、それは文1“小李想去,就让他去吧”と文2“叫老王给你弄点儿吃的”の自体の意味の区別にあると考えられる。まず、文1では、許可を得て恩恵を受ける人の“小李”がその場にいないため、“小李”の立場から使うべき恩恵文の「~てもらう」を使う必要もなくなる。それに、ここで話し手と聞き手は“小李”より上位に立っているので、“小李”に対しては一種の許可を与えている。そこで、恩恵文を使う代わりに、使役態を選んだのだ。
 それに対し、文2“叫老王给你弄点儿吃的”(参考訳文:王さんに何か食べ物を作らせましょう)は直接に利益や恩恵を受ける人に向かって話しているから、「~てもらう」形式を使った学生も2人から16人に増えてきた。ただし、ここでもし「~てもらう」を使って感謝の気持ちを相手に伝えようとしても、恩恵を与える人または実際に動作を行う主体の“老王”がその場にいないから、その必要性もなくなる。根本的な原因からいえば、文2で私は“老王”より地位が高く、“老王”に頼んで何かをするのではなく、“老王”に命令を下ろして何かをしなさいという意味を含意しているから。また、文1も文2も最後に「~ましょう」を加えることによって、強硬な命令が丁寧に聞こえる。
 また、文12“我们都想让老师讲讲日本的情况”(参考訳文:私たちは先生に日本のことを話していただきたいと思っている)、文13“好在我让他留下了姓名和地址”(参考訳文:幸い、彼に名前と住所を残してもらった)では、「~させる」形式を使った学生は1人しかいないのに対し、文14“等到10点钟还不来的话,再叫小王去喊他”(参考訳文:10時になっても来ないようだったら、王君に呼びに行ってもらおう)、文15“改选前,先让大伙提提意见”(参考訳文:改選する前に、みんなに意見を出してもらおう)ではそれぞれ10人・6人がいる。文2と文14を比較してみると、両文とも“叫谁给谁做什么”と言う意味を表し、三つの主体と関わっている。文2は“老王,你,我”の三つの主体、文14“小王,他,我”の三つの主体である。しかし、文2は「~させる」の形を使っているが、文14は「~てもらう」の形を使っている。おそらく文2では“叫老王给你弄点儿吃的”直接に利益を受ける人は聞き手の“你”だから、話しての“我”の立場から見ると、恩恵を表す必要がなくなる。それに、被使役者(実際に動作をする人)もその場にいないため、「作らせましょう」という使役態を用いた。また、「~ましょう」形を使うことによって、聞き手の“你”と一体感を持つようになった。一方、文14では、“小王”に頼んで、自分の代わりに“小王”が“他”を呼ぶことによって、話し手の自分が直接に利益を受ける。また、ここで“小王”と「私」は平等な地位にいる。それで、参考例文は「~てもらう」というやりもらい文を用いた。しかし、文2と勘違い、「~させる」形式を使う学生が少なくない。
 文15“改选前,先让大伙提提意见”の参考訳文は「改選する前に、みんなに意見を出してもらおう」、「~てもらう」形式を使った。それはおそらくこの文は被使役者(実際に動作をする人、つまり意見を出す人に面を向かって言ったから、「~てもらう」形式を使うと聞き手の“大伙”に感謝の気持ちを表している。 
 以上の内容をまとめてみると、「~させる」は使役を表す。使役文の基本的な意味としては、「人が他の人に対して何かを行うようにしむける」という意味のものと考えられることが多い。使役は「強制、許可・許容、傍観・放任、他動詞的など」の使い方がある。一方、松浦とも子(2003)によると、「使役型てもらう」構文の意味を、「話し手がわからの主観的表現であり、話し手が主体に身をおき、主体の視点で相手(ニ格)が動作主である事象の授受行為を恩恵と感じる時に使う表現」と捉える。相手の「行為」を「恩恵」と取るかどうかは、受け手の判断ではなく、あくまでも話し手の主観による判断と考える。そこで、定義からいうと、両者は根本的な違いがある。「~させる」はほかの人にに強制や許可を与える。つまり、動作を指示する一方は上位に立つが、動作をするもう一方は下位に立つ。一方、「~てもらう」はほかの人に頼むことを表す。つまり、動作をする一方は動作を頼む一方よりは上位に立つ。たとえば、
(1)いつも太郎ばかりに行かせて気の毒だから、たまには次郎にも行かせよう。总是让老大去太可怜了,偶尔也让老二去去吧。
「気の毒」はキーワードとして、「行く」ことはあまりよくないことを含意している。それに、主語(父母)は動作をする(太郎あるいは次郎)に対し、上位に立つ。
(2)次郎に行ってもらう。让老二去。
中国語の意味から見てはあまり区別がないが、実際この文では主語(父母)は上位に立つのではなく、次郎の行為によって利益をもたらしたことを表す。
3.まとめ
 本稿では主に中国語の“让字型兼语句”“使字型兼语句”を日本語に翻訳する宿題の中に出てきた誤用例を中心に、「~させる」と「~てもらう」の使い分けを分析してみた。簡単にまとめてみると、使役文は命令や指示などの意味を含んでいるので、被使役者がその場にいないときは使役態を使ってもいいが、被使役者がその場にいるときは、授受表現の「~てもらう」を使って感謝の意を表したほうが適切である。
 また、ほかの問題点たとえば「~させよう」と「~させてあげよう」の使い分けについて言及することができなかった。それを今後の課題としたい。

4.参考文献
ア)黒木京子(1997)「日本語教育における使役文の扱いとその問題点一進学する学習者に使 用が期待される用法にっいての考察」『言語文化と日本語教育』
イ)曹玉華(2011)「『~せる ~させる』与『~てもらう(いただく)』」日語知識
ウ)松浦とも子(2003)「『使役型てもらう』構文の日中対照研究―中国語母語話者の授受表現における母語の影響」『早稲田大学日本語教育研究』
エ)楊凱栄(1989)『日本語と中国語の使役表現に関する対照研究』くろしお出版

(文字数 3506文字)
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