雨が降り続く夜に

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Mar 6, 2012 23:15
いつもより遅い夕飯を食べていると、上の子が2階から降りてきた。
静かにドアを開けたと思ったら、台所に行ってクッキングヒーターの電源を入れた。
今年中学に入る息子は小学校の6年間で49センチも背が伸び、今は学年一の176センチだが、
フライパンでソーセージを焼いているその背中がなぜか少し小さく見える。
隣に座って、焼いたソーセージをもぐもぐ食べ始めたが、普段より食べるスピードが遅い。
息子はソーセージを食べ終わると、しばらくしてまた2階に上がろうとした。
「なにか話したいことでもあるの?」と呼び止めた。

息子は開けようとしたドアを閉め、再び隣に座った。
「昨日悪い夢を見たんだ。僕が死んで横たわっているのに、みんな僕を見て見ぬふりするの。」
昨日の夜、妻から聞いた話だ。その夢を見た後、妻の前で号泣したらしい。
高機能広汎性発達障害を患っている息子は社会性の発達が遅く、コミュニケーションを取るのが苦手だ。
低学年の頃からカウンセリングと薬物治療を続け、ここ1年以上は何事もなかったのに。
背中を丸めて、下を向いて小さな声でしゃべる息子を見ていると胸が張り裂けてしまいそうだ。

「ノートと鉛筆を持ってきてくれる?」
息子が2階に上がった隙に顔を拭いて、深呼吸をした。もう大丈夫だ。
持ってきたノートに長い横線を一つ引き、それを8等分するように短い縦線を引いた。
一つ目の縦線のすぐ横に丸をつけて、「あなたは12歳、今ここにいるの。」と話し始めた。
絵を描きながら話すのは、想像する力より判別する力に長けている息子のため、
そして、息子の顔を直視することができない私のためだ。

話した内容はほとんど記憶に残っておらず、ノートはいつのまにか線と文字でびっしり埋まっていた。
「家族はいつもあなたの味方だよ。」と言ったことだけは覚えている。
もう少し気の利いた言葉を、心が一瞬で晴れるような慰めの言葉を、勇気を与え続ける言葉をかけてあげることはできなかったのか。
力になってあげられないのが悔しくて悔しくて仕方がない。
子供のことは分かっているつもりだったのに、実は全然わかっていなかった。

息子が2階に上がった後も、しばらく考え込んでいた私の目に息子の皿が映った。
その皿には、息子の大好物のソーセージがひとつ残っていた。
おそらく、私のために残してくれた息子の心だ。
私は子供の心が全然わかっていない。

2012/3/25 添削反映