ビグダン地方の冒険 (4)

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Dec 23, 2014 07:28
ビグダン地方の冒険 (4)

結局ここに住むことになった。絶望しなかった。安価で広大な家を借りていた。地名自体も面白かった。フランス語の綴りは「カナプ」だったけれど全く親しい意味にならないので大部分の人は「カナペ」(ソファ)と発音していた。本当は「カナプ」は正しい発音だった。昔は綱などを作るために家の前の沼で麻を浸漬していたので、この場所はその「麻」で名付けられ、「カナプ」ブルトンの「カナビス」だった。まぁ、「カナビス」という所に住むなんと言っても面白い。

でも、地名よりそこですっと興味深いものがあった。家から50メトルに離れている共同洗濯場があり、今でも三人のおばあちゃんが週2−3回洗濯しに来ていた。しかもあの三人は地元のクエフを被っていたのだ。もちろんあの有名な高いレスの管の形をした被り物ではなく、クエフの中のキャップだった。本物のクエフを被っていたのは日曜日にミサに行くだけだった。それでも僕にとってすごかった。子供の頃祖父母の村ではクエフを被り、共同洗濯場に通っていた高年齢の女性がいたがあまりにもダサいと皆は思い彼女たちを少し軽蔑していた。更に15年前からその行動をする一人もいなくなっていた。ビグダン地方はタイム・マシンのようだったのだ。来て良かった。

ただ不満な所があった。確かに周りに割とよくブルトン語を聞こえていたが話すきっかけはなかったのだ。ブルトン語は昔から学校で禁じられていたので段々と親しい人としか話さないことになった。知らないのにいきなりブルトン語で声をかけたら、人のプライバシーを犯している奴か、ブルトン語で声をかけられた者がフランス語でしゃべれるくらいの教育を持っていないと思う偉そうな奴かと思われる可能性が高く、いずれにせよ誰とも思い切ってブルトン語で話さなかった。その点では残念な気持ちになっていた。


そういう思いを頭に浮かべながら犬との散歩をやり始めた。道路を渡って沼を横切る狭い道を歩き出した。暫くしたら向こうから暗い姿が見えてきた。隣のビグダンおばあちゃんの一人だった。近づくと彼女は怖れた顔で僕の犬を睨んでいた。潮時だと思った。ブルトン語で話すことに踏み切った「ネオケダオドホスポンタ、ネオケメシャンマヒ(怖れるコタはありません、犬は意地悪ではありません)」

N'eo ket daw deoch' spontañ, n'eo ket mechañ ma c'hi