福耳  (関西弁インサイド)

  •  
  • 383
  • 6
  • 1
  • Japanese 
Feb 6, 2016 20:42
宣伝のモデルさんの顔を見て、「えっ…何やろこれ」とびっくりしもうた。次のモデルさんを載っている宣伝で確認せんとあかんと思うたがそんな急に何ページもを飛ばすこができへんかった。
今朝は僕が日本語を勉強しているさかいある同級生が大学のどっかで拾った日本の雑誌くれたん。日本の雑誌が手に入るって初めてやったから最初は嬉しかったんやけど直ぐにがっかりした。たまに既に勉強した字があったんやけど主に知らん漢字の海に溺れていくだけやと分かった。せやから読むのを諦めて、ただ写真を見るだけにしたん。まぁ、もちろん特に美人で僕にとってとてもエキゾチックな感じをするモデルさんの写真。でも一生懸命日本語を勉強したも結局何も読めへんことは阿呆らしいさかい周りにおった人に知らんでよろしいんで読むフリを続けた。

次のモデルさんのおるページに着いた。しっぱい。次のも。七か八回目に諦めるところやったけどまたモデルさんは探しておる特徴を持っておった。耳はつんと髪から伸びていた。なんで僕はそんな些細な事を興味深く思っておるかいと聞くと…


僕は酷い耳で生まれたんや。でっかくて、シワでいっぱいやったん。系統発生的にキャベツの葉っぱと象の禁じられた種間交雑の恐ろしい結果しか思えへんかったん。しかもこめかみとの角度は90度あったさかい少しでも髪で隠すことも無理やったん。誰かと話したらその人の外斜視のせい、僕の目よりも僕のミミを見ておると分かっておる。

もちろん学校でど苛められたん。幼稚園二年生の時、初めて「ダンボ」と呼ばれた。そこから急にこのニックネームが他の生徒からのただ一つの呼び方となった。仲がええ子供でも「ダンボ」。言い争いなら僕のミミは冷やかしのテーマやったさかい必ず負けておたん。ちなみにそのせいであ言い争いの種を避ける達人になったん。高校に入ってからちょっとマシになったん。同級生は大きなってこんな不体裁で人をバカにするってど残酷と分かって、やっと名前で読んでくれたん。自分も不幸な運命を乗り越えるために頑張ったん。たとえ、朝ひげを剃る時顔しか鏡に映らんようにしたり、自分の顔は平均より綺麗やと自慢に思ったりしたけど半分しか成功せんかったん。毎日自転車に乗ったら、耳にひゅるひゅると吹く風の音は不幸な運命を思い出させたん。それに人の外斜視。心の暗い日は嵐の中で耳が風に折れて目を塞がって事故で死ねばええと思ったりしてたん。

せやからモデルさんが僕と同じ系統を属する耳をしておるってことで興味が湧いてきたん。この世ではでっかい耳がゆるされておる国があるかい。

初めての雑誌を見て見終えたん。次の雑誌をあけたら初めてのモデルさんも耳がつんと髪から伸びていたんや。ごつい。興奮してきて慎重を全く忘れて宣伝から宣伝まで飛ばして統計をし始めたん。大体モデルさんの四分の一は髪から伸びる耳をしておった。ほんまに日本人はそれに気にせんや。

その嬉しい思いを浮かべておた中、「何夢をみてはんの」と楽しそうな声云うたん。
ソフィやった。ソフィは質のええ美人やった。美人だけとちゃうで、ど上品やったん。一目惚れしたんけど僕のような男に興味を持つと有り得へん、しかも付き合ってくれることは僕が勉強に役に立つとちゃうかいと訝っておったさかい秘密にしておったん。
「何云うとんじゃ。全然夢見とるとちゃうで。」
「モデルさんを見てはるばかりとちゅうかい」
「あのよ…あんたが思うとちゃうで。このモデルさん耳を見てや。ごつう出てると思わん」
「ええっ。ほんまやで。おもろ過ぎ。」
「彼女だけやとちゃうで。いっぱいおるで。」
「ええぇ」
「ソフィ、僕は日本しかええと思わん。」
ソフィは困った顔をしたん。
「あのなぁ。確かにあのモデルさんの耳はおかしいんや。フランスで絶対にそんな障害をもうたらモデルになれはんで。でも悪いけどあんたの耳はずっとひどいんやで。しかも…」
下の唇は少し震えておった。明らかに云うか云わんかとためらっておった。かかってこんを得へん呪いを雄々しく待ったん。
「あんたの問題は耳だけとちゃう。身長も問題やで。百五十センチも超えれん男の好む国って絶対にあらへんで」
ナイフに刺されたような苦しみやったん。身長の問題を忘れておったんや。乾いた音で雑誌をしめて、教科書をあけたん。

---
ソフィは京都弁のつもりで、語り手は和歌山弁のつもりです。